大阪地方裁判所 昭和35年(行)39号 判決 1962年11月30日
原告 那須繁男 外一名
被告 国 外一名
主文
原告等の本訴請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
第一当事者双方の求める裁判
一 原告等
「原告等と被告等との間で、別紙目録記載の土地は原告等の共有(持分平等)であることを確認する。
被告倉田光雄は原告等に対し、昭和三三年六月二三日大阪法務局北出張所受付第一三、四九四号をもつてなされた、別紙目録記載の土地に対する所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
訴訟費用は被告等の負担とする。」
との判決
二 被告等
主文同旨の判決。
第二原告等の主張並びに被告等の抗弁に対する認否
一 別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する。)並びに大阪市東淀川区上新庄町二丁目一〇七番地の一、田五畝二二歩は、もと、同所一〇七番地、田一反三畝九歩の一筆の土地で、原告等の持分平等の共有であつた。
二 被告国は、昭和二三年一二月二日、原告中埜が不在地主であるから自作農創設特別措置法第三条により買収するとして、右共有地を本件土地並びに同所一〇七番地の一の土地に分筆した上、本件土地を同日同原告から買収し、次いで被告倉田に売渡処分をなして請求の趣旨第二項記載の所有権移転登記をなした。
三 しかし原告等は右共有地につき共有物の分割をしたことはないから、右の分筆がなされたとしても、その結果生じる本件土地はやはり原告等の共有である。被告国は、自作農創設のためとは言え、共有者に代位して共有物の分割をすることはできぬ筈である。したがつて、不在地主の原告中埜の共有持分を買収するのはとにかく、本件土地全体を同原告から買収した本件買収処分は、買収原因のない原告那須の持分をも買収計画なくして買収し目的物自体を誤まつた不能の行為であり共有土地を原告中埜の単独所有として同原告から買収して持分買収をしなかつた点で重大かつ明白なかしがあり当然無効である。
したがつて、原告等は、被告等との間で、各原告が本件土地を各二分の一の持分で共有することの確認を求め、被告倉田に対し、売渡処分による所有権移転登記の抹消登記手続を求める。
四 (被告倉田の時効取得の抗弁に対し)被告倉田がその主張のとおり本件土地を占有する事実は認めるが、その余の抗弁事実は争う。同被告は原告等から賃借小作していたもので本件土地が原告等の共有の事実は充分熟知し、仮りにこの点につき善意としても知ることができるのに知らなかつたのであるから無過失とは言えない。
第三被告等の答弁
一 原告等主張の一の事実は認める。
二 同二の事実も認める。したがつて原告等の持分権は現存しない。
三 同三の事実はこれを争う。原告等は、本件土地分筆前の大阪市東淀川区上新庄町二丁目一〇七番地、田一反三畝九歩のほか、同所一二七番地、田八畝九歩(以下甲土地と略称する。)、同区下新庄町三丁目三八五番地、田一反五歩(以下乙土地と略称する。)の三筆を共有していた。しかし、原告中埜は不在地主であり、右一〇七番地は被告倉田が、他の二筆は訴外人が夫々賃借小作し自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当するところから、訴外大阪市東淀川区農地委員会は、原告等共有の右三筆の合計反当三反一畝二三歩の内、原告中埜の持分の割合二分の一に対応する一反五畝二六歩について買収計画を樹立し、大阪府知事は右計画に基づき原告等に代位して右一〇七番地土地を同番地の一と本件土地七畝一七歩とに分筆し、右反別に達する様に本件土地及び甲土地を原告中埜の、右一〇七番地の一及び乙土地を原告那須の各単独所有とする代位による共有物分割をなした上で、原告中埜に対し本件土地及び甲土地八畝九歩の二筆計一反三畝二六歩を買収し、更に本件土地を被告倉田に売渡処分をなしたものである。右の様に、本件土地につき原告那須の持分は消滅し原告中埜の単独所有となつたものを買収したのであるから、持分買収をしなくても当然無効とは言えない。
四 (被告倉田の仮定的抗弁)仮に本件買収処分が無効で、よつて売渡処分も無効となるとしても、被告倉田は、昭和二四年一一月八日、売渡の時期を昭和二三年一二月二日とする売渡通知書を被告国から受領し、右対価を昭和二五年二月一五日に支払済で、右により本件土地の所有権を適法有効に取得したものと信じ、かつ、かく信じるについて何等過失もなく、平穏かつ公然にその自己のためにする占有を開始し一〇年間継続したから取得時効が完成しており、したがつて本訴においてこれを援用する。よつて原告等の本訴請求は理由がない。
第四証拠関係<省略>
理由
原告両名が大阪市東淀川区上新庄町二丁目一〇七番地、田一反三畝九歩を持分平等の割合で共有していたことは当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨ならびに成立に争いのない甲第一、二号証、乙第一号証、原告両名の本人尋問の結果によると、被告国は、原告等に代位してなすものとして、同土地を本件土地及び同番地の一に分筆登記し、そのうち本件土地について、自作農創設特別措置法第三条第一項第一号所定の不在地主所有の小作地に該当するとして、買収の時期を昭和二三年一二月二日と定めて、本件土地全部を原告中埜から買収する処分をなした事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。
ところで、同法による買収土地について被告国が買収部分の分筆登記を被買収者に代位してなすことができるのは当然であるが、更に進んで、買収原因のある共有者に対する国の買収による請求権を構成して、同請求権を保全するため右共有者の共有物分割請求権を国が代位行使するが如きは自作農創設特別措置法によつても許されず、仮りに許されるとしても原告那須本人訊問の結果によると、被告国が共有者の原告那須と共有物分割の協議をなしたことはない事実が認められ又原告中埜とも右分割をなしたことはない事実が認められるから、前段認定の分筆後の本件土地は、やはり原告等の共有であつたと言わなければならない。したがつて、本件土地全体を原告中埜単独から買収した本件処分は、同原告の持分に対する部分はともかく、少くとも、原告那須の持分に対する部分は、所有者を誤認し不在地主所有のものでないものを買収した重大かつ明白なかしがあると言うべきである。
しかし、成立に争いのない乙第一ないし第三号証、証人倉田福松、同植原音松、原告那須、同中埜、被告倉田各本人の尋問の結果によると、被告倉田の父福松は、当時の所有者井上延次郎から本件土地の前身である前記一〇七番地土地を借受け小作をしていたこと。同土地はのちに同人から転々して原告等の共有となり、訴外植原音松は原告那須の父那須耐成の依頼によりこれを原告那須の所有地と思つて管理していたこと、被告倉田の父福松は、同土地の小作を継続し昭和二〇年頃から被告倉田が主となつて耕作していたが、被告倉田等は所有者の何人であるかは知らなかつたこと同被告は、昭和二四年一一月八日に、売渡時期を昭和二三年一二月二日とする自作農創設特別措置法による被告国からの売渡通知書を受領し、右売渡通知書の所有者の住所氏名欄の「守口市中埜秀太郎外一名」の記載により本件土地が原告中埜と他の一名とが共有していたことを知つたが、前記の如く本件買収に無効事由の存在することを知らないで、昭和二五年二月二五日その対価の支払を了し、右支払により自己の所有に帰したと信じて、平穏公然善意に本件土地の自主占有を開始したことが認められる。右認定の事実によると右占有の始めに被告倉田に過失がなかつたものというべく、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。そして、被告倉田が右の占有を継続した事実は当事者間に争いがなく、右自主占有の開始から一〇年の期間が本訴提起前の昭和三五年二月二五日に経過し、民法第一六二条第二項の取得時効が完成していて、同被告がこれを本訴において援用する。しからばその所有権は右自主占有開始のときに遡り同被告に確定的に帰属したものといわなければならない。
そうすると、原告等が本件土地の共有権の確認を求める本訴請求は失当であり、又、被告国からの売渡を原因とする被告倉田の為の所有権移転登記は権利の帰属状態と一致し、原告等は本件登記について抹消ないしは持分移転への更正登記を求める利益も考えられないから、これを求める本訴請求も理由がなく失当であるので、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 前田覚郎 田坂友男 野田殷稔)
(別紙目録省略)